メメント

両手いっぱいの好きなものについて

09/26雷句誠原画展に行ってきたのだ

『金色のガッシュ!!』は小学生の頃に出会った作品である。私同様に当時のキッズは大半がこの作品にのめり込んだのではないだろうか。週刊連載だったからおそらく2か月に1冊は新刊が出ていたはずなのに、当時は首を長くして発売日を待っていたことを憶えている。完結する頃には私は高校生になっていて、出会った当時私よりもお兄さんだった清磨をいつの間にか追い越していたことも、とても感慨深い。

魔物の子どもたちが消えてしまうことはとても衝撃的で心の底から悲しい気持ちになったけれど、唯一救いに思ったのは子どもたちが完全に死んでしまわないところだった。魔界に戻るというのも十分悲しいけれど、住む世界が異なるとはいえ生きていてくれるのだから、それはとても大きな救いだったと幼心ながらに感じていた。

『金色のガッシュ!!』を読むとき、猫の目のように変わりゆく感情を体験する。腹の底から笑ったり、ガッシュや清磨が流すような滂沱の涙を一緒になって流したり、そのなかで大切なことをたくさん教えてもらったのだと思う。何と言っても当時の自分と同世代の子どもたちが大きな敵に対して立ち向かうところは、あの頃読みふけっていたときはもちろん、大人になった今読み返してみても手に汗握らずには読めない。

思い起こせば『金色のガッシュ!!』において胸が震えるシーンというのは枚挙にいとまがない。私にとって『金色のガッシュ!!』は幼少期の精神を育成するにあって多大な影響を及ぼした作品であり、とにかく大切なことをたくさん教えてくれた聖典なのである。だからこそ、十数年の時を経てもう一度邂逅を果たせることになるとは夢にも思わなかった。まさに果報は寝て待て、とでも言えるだろうか。

満を持して向かった展示会場、「カサブタ」が流れる場内に漲る熱気。大好きなキャラクターたちに命が吹き込まれる瞬間を目の当たりにした。絵を描くのがとても苦手な私でも分かる超絶技巧。アナログで色を重ねる繊細さと色の深みに、思わず唖然としてしまった。

美しい群青や紺碧に吸い込まれそうになっては、その美しさのあまり絶えずため息を漏らしていたように思う。何物にも代えがたい深い群青を、白い満月が浮かぶ紺碧の空を、ガッシュが纏う濃緑を、ティオの周りに溢れる愛らしい桃色を、挙げればキリがないすべての色を、いつまでも憶えていたいと心から思った。何と表現すればいいのかと迷うくらいに、会場は豊富な色に溢れていた。

そうだ、魔物の子どもたちが持つ本の色はそれぞれ異なる。だからこの物語には、最低でも100色の色が存在しているのだ。色名はあまりにも重厚で、表現の幅がとても広い。まさに十人十色と言える個性をひどく愛おしく感じた。もちろん、白と黒だけで描き出される原稿にも大迫力のエネルギーが横溢していたことは言うまでもない。紙面において流れゆく涙や、彼らが織り成す術の数々に目を瞠った。

莫大な術が繰り出されるなかで肝心の人間と魔物の子はあまりにも矮小で、術とは対照的に描かれている様子が深く印象に残った。こうして圧倒される情景を目の前にした私は、息をするように涙をこぼしてしまった。

思えば、作品に没入するときは自分の身が無防備になるくらいにキャラクターたちの感情が自分のなかに入り込んでくるような気がする。表面的なものに過ぎないかもしれないけれど、他者の喜怒哀楽が流入することは有り体に言うと疲弊することである。だから本音を言うと感情移入は極力避けたい。

とはいえ、幼少期にこうした追体験をできたというのは掛け替えのない経験であることもたしかである。作品を通して様々な感情を知るということは、端的に表すと刺激が強いからこそ己のなかにもその感情が着実に息衝くようにも思えるのだ。それに、幼いころの脳はきっと吸収する力に溢れている。だから当時体験したことは、大切な記憶として自分のなかに根付いているはずだ。

例えば久方ぶりに『金色のガッシュ!!』を読んでも、ハッとしたようにキャラクターの名前が甦ってくることとか、改めて一気に読んだときにアニメとか「カサブタ」を思い出したりなんかもして、身悶えすることとか。

とにもかくにも、私の心を揺さぶってくれる作品に幼少期に出会い、そして多感な時期をともに過ごせて、私はとても幸せだと改めて強く思いました。無事に原画展に行けたことにも感謝の気持ちでいっぱいです!そして、何よりも素晴らしい展示会の企画・開催に心からお礼を伝えたいです。ありがとうございました!

これは余談ですが、写真もね、もちろんバシャバシャ撮りまくりましたよ、ほんとうに。ほくほくした気持ちで、訪問後そっとフォルダを確認したところ、なんと、そこには一面を敷き詰めるモノクロの写真たちが…。

そう、モノクロのフィルムに設定したアプリをそうとは知らずにバシバシと使用していたのですべての写真はモノクロで保存されていたのでした…。詰めの甘さがなんとも私らしい。外側だけは後からも写真を撮れそうだったので、一息ついた後にちゃんと撮ってきました。

写真撮影可能なのはモノクロの生原稿がメインだったので、いずれにしても白黒の写真が多いことにはちがいないのだけれど、まあ、それはそれで、よい思い出になりました。通販でグッズを買うまでが原画展だ、なあ、そうだろう。会場で無事に買うことができた複製原稿をどこに飾ろうか、と幸福な思案をしながら、あのとき目撃した色彩を想う。

できるだけ、永く、私の記憶に留まっていてくれ。これから続く物語も、とてもとても楽しみです。再会を祈って。

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