メメント

両手いっぱいの好きなものについて

THE BACK HORN「敗者の刑」|雷に打たれたような出会い

私が好きなもの、それは酒。それは文学。それは音楽。

酔いたいがために酒を飲んだことはない。単に私は美味い酒に貪欲で、それらを堪能したいからこそ嗜むに過ぎない。これは別の話。

本を貪るように読むことがある。好きであることに違いはないが、どこか躍起になっているような気がする。これもまた、別の話。

音楽がなくても、生きていくことはできる。NO MUSIC, NO LIFEに異論を唱える気はないが、なくても、生活を続けるひとは、そう少なくない。でも私は、音楽があったほうが彩のある生活になる気がする。これが、今日の話。

私はTHE BACK HORNというバンドが好きだ。THE BACK HORNとは1998年に結成されたバンドで、2018年には結成20周年を迎えた。詳しくはウィキペディアなりオフィシャルを見てほしい。THE BACK HORN オフィシャルサイト

たしかに私はTHE BACK HORNが大好きだ。でも、正直に言うと、出演するラジオを全部聞くわけでもなければ、出ている雑誌をすべてチェックしているわけでもない。インタビューをすべて読むこともなければ、オフィシャルグッズを全部買うこともない。ただしラジオの公開収録だと勘違いして満を持して半休を取り、ラジオ局まで足を運んだことならある(その場の空気で公開収録でないことを悟り、近くのスーパーで美味い酒を買って意気消沈して帰路についた)。

前振りが非常に長くなったのだが、これから私が試みようとしているのは、THE BACK HORNの楽曲すべてについて、私の想いの丈を綴る、ということだ。紐解かれた黒歴史よりも赤面必至、俺の墓標を建てるならここだ、と言わんばかりの壮絶な恋文をここに遺す。

どこから着手するか、なんてことには案外迷わず、とある1曲がスッと思い浮かんだ。「敗者の刑」。私がTHE BACK HORNと出会った曲から、したためることにしたい。

出会いは15歳の初夏。中学生のころから、しきりにいわゆる邦楽ロックを聴くようになり、高校生になると一層、趣味嗜好を拗らせるようになった。そんな15歳の初夏、高校生になったばかりの私は、唯一の某CDショップがある田舎のテーマパーク~ジャスコ~へ足繁く通っていた。

あるとき、たまたまエンドコーナーで見かけたのが、彼らの6thアルバムである、『THE BACK HORN』だった。好きなバンドは多々あるが、出会いの1枚や1曲をすべて憶えているわけではない。だからこそ、いっそう彼らとの出会いを尊いと思ってしまうのだが。

磁石に砂鉄が吸い寄せられるように、私はおもむろにヘッドフォンに手を伸ばし、試聴した。今となっては耳なじみのある前奏が、とにかく衝撃的で、今まで聞いたことのない音調に立ち尽くしたことを今でも憶えている。

当時の私は少し背伸びをしていたように思うが、やはりまだあどけない子どもで、すべてが解るわけもなかった。ただ、感受性がやたらに豊かだったゆえに、「敗者の刑」の深みに、見事吸い込まれたのだった。

天秤にかけられているような、パチンコ玉が様々な杭に偶発的に当てられ、どこかしらの穴の中へ落ちていくような、音の遊びを感じる。なんといってもこの曲は、弦楽器たちの唸りと軋みが炸裂していて、どんな角度からでも突き刺さる破壊力を孕んでいる。

温度のない平坦な声、ノイズのような金属音。THE BACK HORNの織りなす詞には、背中を押してくれる心強さや、悲しみに寄り添うやさしさがあって、彼らの言葉は曲ごとにいろいろな表情を魅せてくれる。そうした言の葉の強さは、明日と私とをつなぐ紐帯でもあるのだろう。

ただこの「敗者の刑」。私がこの曲に関してもっとも魅力に感じるのは、声を含める楽器たちのうねり、抑鬱を放出させる歪み、そして深淵へと誘う不可解さ、つまり否応なく興味を掻き立てる刺激だ、ということ。

「儚き夢」*1も、「愛しき夢」*2も、あいにく持ち合わせない私は、当事者であるにもかかわらず、敗者になる資格を持たない部外者なのかもしれない。

そうはいっても、規模は違えど持ち合わせる夢なるもの。夢に限らないが、気持ちが入り込むと、そうした憧憬は、いつしか執着に変貌することもたしかである。希望とも捉えられる夢、つまり「一輪の希望」*3

本来軽やかである夢が、かなしいかな豹変したとき「人は一輪の希望を奪い合いながら生きて死んでいく」*4のかもしれない。

終盤に鳴り響くのは、これまでのノイズと対照的な鍵盤の音、音。静謐なる音色。この曲のもう1つの魅力は、次の曲へと続くまえにある、わずかな間の静寂であるようにも思う。次、何がくるのか、と心待ちにさせる引力。そして最後に、この曲にかぎらないのだが、たびたび登場する「ギラつく」という描写。あまりにも彼らにぴったりで、あまりの愛おしさにため息をつく。

*1:松田晋二「敗者の刑」、2007年

*2:同上

*3:同上

*4:同上