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両手いっぱいの好きなものについて

THE BACK HORN「フロイデ」|押し寄せる歓喜

「世界を撃て」が終わると間髪入れずに押し寄せてくる「フロイデ」。「世界を撃て」から「フロイデ」という流れはあまりにも勢いがあるので、それだけで体温が上昇するような気分になる。それくらいにこの移り変わりは歓声が沸き起こるかのように華やかである。

2曲目の「フロイデ」。これまた最高にかっこいい。紅蓮の怒号」*1とか、それだけで字面もかっこいいし、語感もかっこいいし、とくに中二の病にはたまらないのでは、と思う。

戯言はさておき、中二の病は抜きにしてもとにかく「フロイデ」は鮮鋭であるとともに迫力が際立っている。フロアが一斉に沸き立ち、その場の温度が上がるような音楽。フロイデにはそうした力が漲っているのだ。

だってもうこの前奏から大騒ぎの予感しかない。それにサビに入る前だって、お手を拝借、と言わんばかりの様相。これを聴いていてぶち上らずにはいられない。

ところでフロイデとはドイツ語で喜び、歓喜という意味だが、「狂気のフロイデ」*2という言葉を再現するような躍動感がこの曲ではうねりを見せている。この曲にとって喜びとは何なのだろうか。

声を出すことが禁止になってから、ライブで合唱することはなくなった。そうはいってもライブのときにはほとんど出さなかったので、正直にいうと個人的にはあまり変わった感触はない。ライブに行って拳を突き上げることができれば、わりとそれで満足である。

とはいえ、やっぱり向けられたマイクに向かって声を出すと、その場が一層白熱することは否定しようがない事実である。彼らの雄叫びに合わせて声を集約させる営みはとても膨大な熱量を孕んでいて、この場特有の情景が広がっているはずだ。

音楽をとおして熱量を発すること、さらにいえば音楽によってその場全体が熱を帯びていくこと、それこそが喜びの一つなのかもしれない。ライブハウスで繰り広げられるのは、まさしく「狂気」を孕んだような喜びの総体だと言えそうである。

これは先入観まじりの見解だけれど、ところどころ「城っぽいな」と感じるのはやはり気のせいだろうか。「フロイデ」を描いたのは岡峰さんだから城に舵を切ってしまうのかもしれない。たとえば次の歌詞から、城の崩落なんかをそこはかとなく連想した次第である。

踏みにじった夢の跡
舞い上がる火の粉
時の風吹き荒び全てを燃やし尽くす
岡峰光舟「フロイデ」、2008年

 もしかすると「夢の跡」という言葉が「舞姫」にも登場していることも要素の一つかもしれない。「舞姫」には「焼け落ちてく孤城の空」*3という表現があるし、これもそこはかとなく城である。城以外の語彙消失。

さて、ここから間奏を挟みながら最後までフルスロットルで駆け抜けていくところが非常に小気味よく、なんだか非常にスカッとする。このアップテンポに身を委ねながら音の渦に呑まれていくことがめちゃくちゃ気持ちいいのだ。

繰り返し牙をむく憎しみの丘
誰のため何のため嘲笑う月
在りし日の旋律に遥かなる空
同上

この体言止めが入れ替わり立ち替わりドドドッと押し寄せてくるところがさらに「フロイデ」の勢いを加速させている。言葉が畳みかけるように編まれていくところに圧倒され、恍惚とするのは致し方ないだろう。

THE BACK HORNの楽曲のなかで熱を帯びた曲というのは枚挙にいとまがないけれど、この「フロイデ」がそのうちの一つであることは明白である。とにかくアツい。やっぱりTHE BACK HORNだからこそこんなにも底知れない熱を発することができるにちがいない。

こんなにもアツいのだから、ライブで演奏されれば一層灼熱にもみくちゃにされるのも無理はないだろう。音源で聴いていてもノリノリに楽しくなってしまうのだから、ライブで受ける衝撃たるや。

今となってはモッシュの圧さえも懐かしい。モッシュがないと落ち着いてステージを凝視することができるから、個人的には今くらいの余白があるライブが結構好きなんだけどね。

最後まで怒涛のごとく打ち鳴らされる音たちの圧。すべての楽器と声、あらゆる要素が組み合わさって「これでもか!」というほどに爆音が放たれていく。こうして音が鳴らされていくごとに心のなかで引っかかっている気持ちが改善していくような気さえするのだ。

「フロイデ」を聴いたときに爽快な気分になるのは、この曲がとんでもなくかっこいいということはもちろんだけれど、音のスコールに打たれることによって胸のつかえが解消されていくのを感じるからかもしれない。

そういえば、最後に「フロイデ」を聴いたのはいつのことだろう。久しぶりに聴きたいなあ。マニアックヘブンなどで聴けるのではないかと、横暴ながらも期待に胸を膨らませてみる。まだ声を出せる状態ではないかもしれない。ただ、狂気を孕んだ喜びの総体を、ライブハウスという空間で改めて目撃したい。

*1:岡峰光舟「フロイデ」、2008年

*2:同上

*3:菅波栄純舞姫」、2007年