メメント

両手いっぱいの好きなものについて

THE BACK HORN 「理想」|かなぐり捨てずに連れていく

私事ですが、とうとうここまで来ました、1枚目の最後の曲です。ちょっと待ってくれ、弁明させてくれ、この話には続きがある。

THE BACK HORN』には12曲が収録されていて、最後は「枝」であることは解り切っているんだ。しかし、一身上の都合で、「枝」については随分と前に書いてしまったのだ…。したがって、誠に勝手ながら11番目の「理想」で、このアルバムについての感想はいったん幕を閉じます。まずは一歩目です。シャオラッ!

楽曲に対して「手に馴染む」という表現は適さないかもしれないが、繰り返し聞いていくうちに身体の一部になっていくのを実感する。とはいえ、こんなふうに慣れ親しんだ曲であっても、それを改めて見つめるときには、何かしら新たな視点が拓けてくる。

例えば歌詞を読んで、言葉の意味をもう一度考えてみたりするとき。こんなに素敵なことを言っていたんだよね、とそのたびに感慨深い想いで胸がいっぱいになって、同時に愛おしさも増していく。「理想」の出だしの美しさには言葉を失う。

反射する 白銀の光に
まぶた閉じれば
涙よりきれいな世界まで 届く気がした
昼下がり
松田晋二「理想」、2007年

開口一番からこの美しさ!!!!!あまりにも!!!!!綺麗で!!!!!率直に伝わってしまうガラス細工のような繊細さ!!!!!!!!

失礼、取り乱して本当に言葉を失いました。さて、「白銀の」という語彙があるから、雪が降った冬だろうかと、想像してみる。鳴らされる音も、どことなく凛冽な空気を帯びていて、澄んだ空気と透きとおった冬の空がそこはかとなく想起される。遠く彼方にある蒼穹

「涙よりきれいな世界」という描写が一等美しくて、何度も何度も感嘆の息を漏らしてしまう。「涙よりきれいな世界」はこの曲のなかにこそ凝縮されているのではないかと、素直に感じたよ。

いつまでも終わらないものなど
あるのだろうか
永遠に感じた瞬間も
遠い記憶に消えてゆく
同上

とにかくシンジ松田さん(誰)は心の機微を端的に表現する天才ですよね。「あぁ、そうなんだ、そう言いたかったんだよ、この名状しがたい気持ちを的確に言い当ててくれてありがとう!」と、気持ちばかりが急いて、筆舌に尽くしがたい想いを、彼は軽妙洒脱に世に放つ。

THE BACK HORNの曲を4人で創っているという姿は彼らの魅力を一層引き立てていますが、歌詞にも旋律にもそれぞれの色彩が現れているところも味わい深くて、ぐっと心が引かれます。ものすごい引力。

さよならはきっと出会う為にある
今は揺れる想い 抱えてるけど
何処までも連れてゆけばいいさ
そして遠く光る あの場所へ飛び立って
同上

悲しみや寂しさ、名残惜しさだとか、はたまた影と呼べるような感情を、ともすれば押し込んでしまうことがある。少しでも散らそうとして、考えないよう自分に言い聞かせたり、寂しくなんかないと強がってみたり、平気だと嘯いたりすることもある。

それが根本的な解決にはなっていないことにも本当は気付いているけれど、否定したい感情を真っ向から見つめることは怖いし、正直に言って骨が折れる。堂々巡りのなかで、感情の根元に向き合わない限り解消されそうもないことに落胆しては、また影に絡めとられて、それでもやっぱり袋小路で。

そういうときに「何処までも連れてゆけばいいさ」と肯定してくれる光を知っているということは、心の荷を下ろせるようになる場を、もっと言えば逃げ場をこしらえる助けにもなる。逃げ道に進んでもいいと思えるような心の余裕が生まれるだけでも、視野は驚くほどに広がるのだ。

直接的ではないにしても、誰かからの肯定の言葉は、たしかな活力だ。とはいえやっぱり大切なのは、自分が自分に対してYESと言えるようになることに変わりはない。難しくても、一つでもYESと言えるようになるには、感じていることを素直に受け止めることが、まずは必要な過程なのかもしれない。

かなぐり捨てるのではなく、連れていくというような、前向きな諦めとも言えるような姿勢が、大切なのかもしれない。それはTHE BACK HORNがいつも教えてくれることではあるまいか。

私はというと、まだ難しいと感じることはあるけれど、自分が抱えている感情を抑圧することが減ってきた。「こんなことを思ってはいけない、考え直すべきだ」と誰に言われるまでもなく振りかざしてきた暴力とは、訣別できるようになれたと思う。

どれだけ醜い感情でも、その発露を認めてあげるだけでも随分と気は楽になる。なんとなく大丈夫だと思える。そうやって、これからも「揺れる想い 」を連れていける限り連れて行ければいい。これは、改めて「理想」を聞いていて、確信した出来事だ。

とうとう、この曲の後に「枝」がやってくるんですね。『THE BACK HORN』に限ったことではないけれど、一曲一曲がしかるべき場所に配置されて、ひとつの物語が紡がれていくさまは、限りなく壮美だと、感動を禁じ得ない。

このアルバムの最後は、とにかく大団円という言葉が相応しい。

儚さや無常と折り合いをつけながら、新たな地平に向かって歩を進める姿があまりにも眩しいのだ。ここから先に見えてくるさらなる華やぎと命の脈動を刮目したい。